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XX-weakness

性質の悪い悪夢だと思い込むには、あの光景は余りにもリアル過ぎた。
 響いた炸裂音は、安っぽい花火のようだった。
 砕け散る外皮と飛散する赤とぶちまけられる中身は、スイカ割りで思い切り砕かれたスイカによく似ていた。
 けれどその出来事は、夏の爽やかさとはかけ離れた残酷さで構成されていた。
 網膜に焼き付いているのは肌が破け筋繊維が爆ぜ細胞と鮮血がぶちまけられる瞬間だった。
 鼻腔に燻っているのは髪が焼け肉が焦げる気色悪い臭気でしかない。
 手の甲にはべとりとした粘つきの感触が未だ残っている。
 その全てが狂おしいほどに生々しく拭い去れないほどに鮮烈だった。
 そんな目に遭って尚、目を覚まさないという事実こそが、あの出来事も現状も、決して夢ではないと雄弁に物語っていた。
 人が、死んだ。
 抵抗をする猶予も逃亡を図る隙も与えられず、悲鳴を挙げる時間さえ認められないまま、一人の人間の命が奪われた。
 その叩きつけられた死を想起し、歯を食い縛り肩を震わせる、茶髪の少年がいた。
 ガードレールにもたれかかる細身の少年――花村陽介は、眼前でぶちまけられた無惨な死を、胸の奥でわだかまらせていた。
 そのわだかまる死のイメージは、陽介が初めて死というものを意識した日へと結びつく。
 4月14日。
 小西早紀が、遺体となって見つかった日だ。
 小西早紀の記憶は、陽介の心に居場所を作っていた。笑顔も声も仕草も一生懸命さも、簡単に手繰り寄せることができる。
 好きだった。
 実は鬱陶しがられていたのだとしても。本当は嫌われていたのだとしても。叶うはずのない想いだったとしても。
 陽介は、小西早紀が好きだったのだ。
 けれどもその想いは、小西早紀の喪失を以って行き場を失うことになる。
 心にぽっかり穴が空いた、というような表現の正しさを、陽介は、彼女の死で初めて知ったのだった。
 もう逢えないと思うと悲しかった。二度と話せないと思うと寂しかった。共にいられないと分かってしまうと、辛かった。
 味わいたくはない。
 あんな想いは、もうたくさんだ。
 
「……くそッ!」

 思わず衝いた悪態は、虚しくも真夜中の空気に呑み込まれて果てる。
 その様はまるで、この殺し合いの場において、個人の意志などは無力であると伝えてくるようだった。
 やらない夫とかいう男の前では、無惨にも首から上を吹き飛ばされた男のように、すべての命が無力であると、この仮想空間そのものが告げているようだった。
 身震いが止まらない。
 歯の根ががちがちと音を立てていた。
 スプーンで石壁を削るようにじわじわと、陽介の心は恐怖によって削られていた。
 特別捜査隊の仲間と共にテレビの中に飛び込んで、様々なシャドウと戦ってきた経験がある。痛い思いをしたこともあるし、死ぬかと思ったときだってあった。
 けれどそのときは、一人ではなかった。
 頼れる仲間がいた。いざというときは彼らが助けてくれたし、彼らのためならば尽力することも厭わなかった。
 その身を盾にして、仲間を――親友を庇うときだってあった。
 それなのに、今のザマはどうだ。
 たった一人になっただけで、死の恐怖に支配されてしまっている。
 情けなくてみっともなくて堪らなくて、辛かった。

「……ダセぇ。ダサすぎんだろ、俺……」
 
 呟いてみても、返答などあるはずもなく、一人であることをより深く実感してしまうだけだった。
 とはいえ、だ。
 陽介の戦闘能力は、決して低いわけではない。
 普通の高校生活を送っているだけでは決して体験することのないほどの戦闘経験を、陽介は積んでいるのだ。
 先ほど試してみたところ、テレビの中と同様にペルソナの召喚は可能であったし、支給されたのは使い慣れたナイフだった。
 慣れ親しんでいるが故に陽介は、そのナイフを、手慰みのように弄ぶ。
 軽く回し、ジャグラーのように軽く放り投げ、柄を掴み取る。くるくると回る刀身は、街灯の明かりを反射して妖しく煌めいていた。
 そんな芸当を無意識で行えるくらいには、陽介は荒事に慣れていた。
 だから戦える。戦えてしまう。
 この場所で。
 命を握られ殺し合いを強要されるこの仮想空間で。
 シャドウではなく。
 生きた、本物の、命ある人間と、戦えてしまうのだ。
 足立透と戦ったときとは、決定的な違いがある。
 それは、殺しに来る相手が罪人でも咎人でもなく、ただ、自分と同じように、必死で生きようとしているだけである可能性が高いということだ。
 そんな相手を――生きるために必死の人間と、戦えてしまう能力を持っているということが、怖かった。
 もしも。
 もしも、仮に、だ。
 見知らぬ誰かと出会い、そいつが陽介を殺しにきたとしたら、戦わざるを得ないだろう。
 抵抗しなければ、間違いなく殺されてしまう。
 無惨にも頭部を爆ぜさせられた、あの男のように。
 そうなってしまった場合、なまじ力が在るだけに。

 そいつを――殺してしまうかもしれないのだ。

 そう認識した瞬間、一際大きな震えが陽介の背筋を駆け抜けた。
 それは善悪や倫理を超越した、根源的な恐怖だった。
 誰かの命を脅かしてしまう可能性。誰かにかつての自分と同じ想いを味わわせてしまう可能性。
 この手で、誰かの生命を奪ってしまうかもしれないという事実は、抗いがたい恐怖となって陽介を苛んでいた。
 誰かを殺すことは、恐い。 
 誰かに殺されるのも、怖い。
 その恐れを掻き消してくれる仲間が、側にいてくれたらと思う。
 特別捜査隊のメンバーが側にいてくれれば、きっとこれほどまでに恐れることはないのだろう。
 里中千枝。天城雪子。巽完二。久慈川りせ。クマ。白鐘直斗。そして、鳴上悠。
 みんなに逢いたかった。
 みんなに逢えればどれほど心強いことだろうか。
 みんなと一緒であれば、きっとこんな悪夢じみたイベントに踊らされず帰れるに違いないのに。

 この場所にいてくれたらと願うのは不謹慎なのだろう。こんな殺戮劇に誰も巻き込まれていないのであれば、それこそがきっと最善なのだ。 
 けれど皆がいてくれればと、陽介は思ってしまう。

 ――アイツらとなら、できやしないことなんて、ねぇんだ。
 
 それは絶対的な信頼だった。
 彼らならばこのような殺し合いなどを是とせず、ふざけた現状を打開するために行動しているであろうという、疑念なき想いだった。
 殺し合いの果てで、生き残った一人だけが帰ることができる。
 やらない夫が告げたそんなトチ狂った言葉さえ、仲間とならぶっ飛ばせると思った。

 けれど、彼らがいないなら。
 この血生臭い場所で独りぼっちであるならば。
 陽介は、自分を保てなくなるような気がした。
 
 最後に残った一人だけが、元の世界に帰れる。
 
 そんな言葉が、耳の奥で残響し心を震わせ理性を揺さぶってくる。
 揺れる理性の先で見え隠れする生存本能は、間断なく囁いてくるのだ。
 
 友人がいないというのなら、何を恐れることがある、と。
 仲間がいないというのなら、何を迷う必要がある、と。
 独りぼっちであるというのなら、生き残るために取るべき手段は一つだろう、と。

 ――なあ、そうだろう? “俺”?
 
 そんな仄暗い囁きを、頭を振って振り払う。

「できねぇよ。できるかよ。そんなこと……ッ!」
 
 心の奥から浮かび上がる囁きを押し留めているのは、殺人に対する猛烈な忌避感だった。
 この手で誰かを殺してしまう恐れと、かつて自分が受けた悲しみを広げてしまう怖れが、皮肉にも、陽介の理性を支えていたのだった。
 
 だとしても、その恐怖を抱き続けるのは苦痛だった。独りぼっちで握り締めるには、余りにも辛かった。
 苦痛であるからこそ、陽介は、不謹慎な希望的観測に縋ることを選択する。
 それは、この仮想空間の何処かに、特別捜査隊の仲間もいる可能性だ。 
 仮に殺戮を強要されたとしても、仲間たちならば絶対に殺し合いをするはずがない。
 たとえこんな状況に巻き込まれても、仲間たちがならばそう簡単に死ぬはずがない。
 逢えるものならば逢いたいと思う。同じように仮想空間上にいてほしいと思う。
 頼むから誰かいてくれとさえ、思うのだ。
 それは信頼であり、陽介が抱くエゴめいた弱さでもあった。
 そして、だからこそ。
 それが分かってしまっているからこそ。
 
「本当に、ダサ過ぎるだろ、俺は……ッ!」
 
 絞り出すようにして呟いて、陽介はガードレールから腰を浮かせる。
 あり得るかどうかも分からない希望を道標に、陽介はアスファルトの硬さを靴裏で受け止めた。
 無意識で宙へと舞わせていたナイフを掴み取り、伸びる道の先に仲間がてくれると信じて、先を見て――息を、呑んだ。
 
 深く昏い二つの銃口が、陽介へと向けられていたのだった。
 
 銃把を握り締めるのは、赤茶色の髪を両側でまとめた、つり目がちな女の子だった。
 陽介と同い年くらいの彼女の青い瞳は、握り締める銃と同様に、真っ直ぐ陽介へと向けられていた。
 真っ直ぐに。
 真っ直ぐに、だ。
 銃という武器の威力がどれほどのものなのか。
 吐き出される弾丸その身に受ければ、どれほどの傷を負ってしまうのか。
 そのことを、日本に住む一般的な高校生よりも、陽介はよく知っていて、それ故に。
 撃たれたらどうなってしまうのか、ありありとイメージができてしまう。
 リアリティのある死のイメージが、陽介の恐怖を焚きつける。
 見知らぬ他者から突き付けられた武器が、他人に対する不信感を激しく煽り上げる。
 焚きつけられた恐怖と煽られた不信感は、思考や冷静さをまとめて薙ぎ倒し、陽介を動かした。
 
「――じ、ジライヤぁッ!」

 陽介の背後に、細身のシルエットが浮かぶ。
 頭部は黒く、瞳にあたる箇所に浮かぶのは黄色の手裏剣だ。
 紅のスカーフを靡かせ、胸部にはブーメランを思わせる巨大な装飾が象られている。
 迷彩柄の身に纏う白いスーツに、紅のスカーフがよく映える。
 心に潜む影<シャドウ>を受け入れ、手にした力<ペルソナ>――ジライヤが、その腕を振り上げる。
 瞬間、空気がたわんだ。
 凪いでいた大気がざわめき乱れ逆巻いて色を得る。
 笛のような風鳴を上げ、生まれたのは翠の風。
 一陣の突風は、陽介と相対する双銃使いへと吹き荒ぶ。
 風の向こう、目を見開いてその腕で身を庇う少女の姿を尻目に、陽介は舗装された道路を蹴り付けて駆け出した。

◆◆
 
 風が止む。
 不意に巻き起こった突風はその発生と同様に、前触れもなく消え去った。
 戻ってきた凪いだ大気の中、ティアナ・ランスターは急ぎ状況を確認する。
 風の発生源と思われる、やけにヒーロー然としたシルエットはない。それを呼び出した少年の姿も見当たらない。
 けれどティアナは気を許さずに二丁の拳銃――ソード・カトラスを周囲に向けて警戒する。
 ティアナの身には痛みも出血もない。あの風が目眩ましであると判断するのは容易だった。 
 背後および上空からの奇襲、突風による急襲、ナイフによる斬撃および投擲、あるいは、あのシルエットによる全く予測不可能な攻撃。
 やや強迫観念じみたシミュレートを行うティアナは、警戒の手を緩められなかった。
 緊張に心身を支配されているせいか、正確な体感時間が分からない。
 掌には汗が滲んでいた。心臓の働きは過剰だった。口の中がカラカラに乾いていた。
 そうして張り詰めた意識が、もはや周囲に少年の気配はないと判断した時点で、ティアナはようやっと銃を降ろしたのだった。
 それでも、決して緊張は解けはしない。額を手の甲で拭っても、じわりと汗は滲んでくる。
 ティアナは大きく溜息を吐き、眉根を寄せて唇を噛み締めた。
 
 ――駄目だ。余裕、なくなってる……ッ。
 
 そう自覚できるくらいに、ティアナの心にあそびは存在しなかった。
 不安と焦燥と自己卑下で満たされていて、そんな余地などありはしなかった。
 機動六課に配属されてからの毎日は、厳しい訓練続きだった。
 教官たちの実力を改めて目の当たりにして、感じるのは憧れだった。
 その強さを手にしたいと焦がれた。あの高みに至りたいと願った。
 焦がれ願うだけでは手にできると思うような愚かな令嬢ではない。
 ティアナは決して努力を怠らなかった。訓練でも根を上げはしなかった。ひたすらに研鑽に研鑽を重ねてきた。
 その結果は確かに表れた。強くなったという実感は確かにあった。 
 それでも。
 だとしても。
 遥かな高みにある教官たちや、類稀なる才能を持ちめきめきと実力を伸ばしていく同期生たちの前では。
 ティアナ・ランスターの力など、何の自信にもなりはしなかった。
 兄を無能と謗った者たちを見返すため、時空管理局入りを志したのに。
 これでは、わざわざ無能の証明を立てにいったようなものではないか。
 だからこそ、止まない焦燥に突き動かされた。消せない不安に呑み込まれた。
 やってはならない、失敗をした。それを取り戻そうと焦り、更に失敗を重ねて不安に陥った。
 度重なる失敗経験が、ティアナの自信とプライドを斬り付ける。そうして生まれた傷に塗り込まれる焦燥と不安が、ティアナから冷静さを奪っていく。
 だから。
 だから、つい。
 ほんとうに、つい、あの少年へ二丁の拳銃を向けてしまったのだ。
 その行動の基盤は下らないほどに単純で、馬鹿馬鹿しいほどに短絡的だった。

 ガードレールにもたれかかっていた彼が、手慣れた様子でナイフを弄ぶ姿を見て。
 微かな明かりを照り返す不気味な鈍色の刃を見て。
 その刃で切り裂かれる自分を、イメージしてしまったのだった。
 この場所に、どんな人物がいるか分からない。
 どれほどの実力者がひしめき合っているのか、想像するだけで怖気が走る。
 事実、先の少年が巻き起こした風の正体は分からないのだ。
 未知の力を目の当たりにして竦んでしまい、風が目眩ましであると即座に気付くこともできなかった。
 情けない。
 本当に情けないと思う。
 こんな無様さではいけない。こんなザマでは。

 自分のような凡人は、決して生き残れない。

 自信のなさが生んだその仮定は大きすぎて無視などできず、ティアナを衝動的に動かしてしまったのだ。
 今にして思えば、相手の意志を確かめず無言で銃を突き付けるなどと、軽率でしかなかった。
 ティアナの行動の結果として、あの少年はこの場から立ち去り、見失ってしまった。
 もはや、彼が殺し合いを肯定しないのは明白だ。彼が殺す気でいたのなら、今頃ティアナの身には大なり小なりの傷が刻まれているはずであった。
 ならば、彼とはぐれてしまったのは手痛いミスだと言える。
 ティアナはこの理不尽で不条理な殺し合いを打破すべきだと思っていた。
 そのためには、多くの人物の協力が必要だと分かっているはずなのに、手を取り合うチャンスを逃してしまった。
 それどころか迂闊さが原因で、殺し合いを由とする人物であると誤解されている可能性もある。
 だからまず、彼を捜そうとティアナは思った。
 
 ――まず、謝らないといけないな。逢えれば、いいんだけど。
 
 はぐれてしまった少年を捜すべく、ティアナは動き出すことにした。 
 そう決めたとしても、燻る焦燥もこびりついている不安もそのままで。
 その足は微かに震えてしまっていて、歩みは到底重くて。
 
 無性に、スバル・ナカジマの声が聞きたかった。


【1日目・深夜/C-3 中野区 路上】
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】不安、焦燥、自己嫌悪
【装備】ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾15/15)
【道具】支給品一式、ランダム支給品0~2
【思考】
基本:生き残り殺し合いを打破する。敵だと判断すれば即座に打倒する。
1:少年(花村陽介)を捜し謝罪し、共に行動するよう提案する。
2:殺し合いを打破する仲間を捜す

【備考】
※第7話「ホテル・アグスタ」直後からの参戦です。そのため、ヴィヴィオのことは知りません

【1日目・深夜/B-3 中野区 路上】
【花村陽介@ペルソナ4】
【状態】殺されることへの恐怖、殺すことへの恐怖、自己嫌悪
【装備】ハンティングナイフ×2@現実
【道具】支給品一式、ランダム支給品0~1
【思考】
基本:生き残り、稲羽市へ帰る。今のところは殺す気も殺される気もないが……
1:特別捜査隊のメンバーが参加していると信じて、彼らを捜す。彼らが参加していなければどうするかは考えていない。
2:知り合い以外は信用できない。

【備考】
※アメノサギリ戦後~黄泉比良坂突入前からの参戦です
※ティアナ・ランスターを殺し合いに乗った人物であると認識しています
 

005:Fake World? True World? 投下順 007:一般人たちのバトルロワイヤル
  時系列順  
START ティアナ・ランスター  
START 花村陽介  

 

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