0時だョ!全員集合でいい湯だな!
もうもうと立ち込める白い湯気が、少女の頬を湿らせる。
タイル張りの床に並べられたのは、シャンプーやリンスの色とりどりの容器だ。
(外の世界の、銭湯かしら?)
祀られる風の人間、東風谷早苗。
彼女が飛ばされたのは、現代日本の公衆浴場――すなわち、銭湯だった。
殺し合いをしてもらうと言った割には、妙に緊張感に欠ける場所だ、と。
無駄に精密に作られた、巨大な電子の風呂場の中で、早苗は呆れ気味な感想を抱く。
(でも凄いわね、これ)
とはいえ、そのバーチャル技術は大したものだ。
銭湯の空気も、早苗自身の肉体も、現実に存在するそれが、忠実に再現されている。
術や魔法の類ではなく、科学によって形成された空間は、やはり外の世界のものなのだろう。
早苗の元いた場所・幻想郷にも、この手の技術に長けた者はいるが、
どう考えてもあのやらない夫は、それらと同一の存在には見えなかった。
(……とにかく、今は殺し合いを止めなくちゃ)
しかし、今考えるべきはそれではない。
ここにいない主催者の正体よりも、ここに飛ばされた参加者の命だ。
巫女の仕事は妖怪退治――すなわち、人助けに他ならない。
こんな危機的状況の中、黙って震えていたのであれば、巫女の名折れというものだ。
いつもの異変とは様子が違うが、それでも、これは止めなければならないと、早苗は強く決意を固めた。
……もしそれで、守矢神社の信仰が増えるのであれば、それはそれで役得だろうとも、ほんの少しだけ思ってはいたが。
「とりあえず、ここから出ないと――」
「――うぉォォォ―――ッ!!」
「き、きゃあああああっ!?」
その時だ。
不意に背後から、水音と共に、轟くような雄叫びが上がったのは。
ざぱぁんと豪快な音を立て、後ろの湯船から飛沫が上がる。
お湯の中から現れたのは、奇妙奇天烈な銀色の人形だ。
否、ロボットと言うべきだろうか。
カブト虫の角とクワガタ虫の顎が共存する、妙ちくりんな頭部を持った、金属光を放つロボットがそこにいた。
「うむ、摂氏40度といったところか。肌に心地よい良い湯だ」
「しゃ、喋った!? い、いえそれよりも、何ですか貴方!?」
「俺か。俺はビート・J・スタッグだ」
親指を曲げ、人差し指を立てる。
VサインならぬJサインを立て、ロボットは平然とそう名乗る。
「ああ、これはご丁寧にどうも……じゃなくて! こんな時に何してたんですか貴方は!?」
「風呂に入っている」
「そんな暢気な! 他の参加者に襲撃されたらどうするんです!?」
「問題ない。俺は死なない」
「いやだから、そういう問題じゃ……」
「お前も入れ。心が落ち着くぞ」
「誰のせいだと思ってるんですか! というか貴方男でしょう!? 嫌ですよ混浴なんて!」
「俺はバディロイドだ。人間にいやらしい感情は持たない。俺が興味があるのは俺だけだ」
「ああ、もう……!」
何なんだろうか、こいつは。額に浮かんだ汗を拭いながら、早苗はうんざりした様子でため息をついた。
常識外れの人間は、幻想郷特有の人種だとばかり思っていたが、よもや外の世界にも、これほどの変人が存在していたとは。
それに対応しきれずに、こうしてうろたえてしまう自分も、まだ修行が足りないということか。
もっと常識に囚われず、柔軟に対応できる巫女にならなければ。改めて、己を戒めた。
その早苗の戒めの方向も、若干明後日向きのものではあったのだが、それに気付いた者はいなかった。
「――騒々しいな。何の騒ぎだ」
そしてちょうどこの時である。
がらがらがら、と音が鳴り、浴場のガラス戸が開かれたのだ。
果たしてそこに立っていたのは、美しい緑髪を持った少女であった。
整った顔立ちから連想する言葉は、まさに美少女の三文字に尽きる。
陶器のような白い肌と、金色に光る双眸が、えも言われぬ妖しげな魅力を醸し出していた。
きっと同性であったとしても、その妖艶な美貌を前には、無言で魅入られずにはいられなかっただろう。
「えーっと……貴方こそ、何をなさるおつもりだったんです?」
彼女の格好が、素っ裸に、タオルを巻いたものでなかったらの話だが。
「何って、風呂に決まっているだろうが」
よいしょ、と腰を降ろしながら、半裸の女は腰をかがめる。
黄色い椅子を小脇に抱えると、姿勢を正して歩みを進める。
ひたひたと素足の足音を立て、少女は早苗の横を抜けると、湯船へとつま先を突っ込んだ。
「あ、タオル」
「ん、そうだったか」
そして早苗に指摘されて、肌を隠したタオルを剥ぎ取る。
白一色の清潔のタオルを、素早く頭上へと持ち上げると、エメラルドの長髪をさっとまとめた。
そうして、何のてらいもなく全裸になった女は、これで準備万端だと言わんばかりに、悠然と湯船にしゃがみこんだのだった。
「……それで、何か問題はあるか?」
「いや、問題というか……」
「見ろ。彼女も入っている。やはり風呂屋に来たのなら、きちんと風呂に入るべきだ」
「Jさんは黙っていてください!」
「そこのロボットの言う通りだな。少し身体を温めて、落ち着け。風呂は心が静まるぞ」
「ほう、お前は分かっているな。そして俺はビート・J・スタッグ」
「C.C.とでも名乗っておこうか」
「はぁ……」
思いのほか、前途は多難かもしれない。
神奈子様、そして諏訪子様。今回はいつもとは違った意味で、難しい戦いになりそうです。
何を考えているのかも分からない、ロボットと少女を前にして、早苗はもう1つため息をついた。
【1日目・黎明/D-7目黒区・銭湯の女湯】
【東風谷早苗@東方Project】
【状態】精神疲労(小)
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考】
基本:この殺し合いを止める
1:殺し合いに乗っていない参加者達を助ける
2:この人達をどうすべきか
【備考】
※遅くとも「東方風神録」終了後、本格的に妖怪退治を始めてからの参戦です
【ビート・J・スタッグ@特命戦隊ゴーバスターズ】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式(湯船に水没)、ランダム支給品1~3(湯船に水没)
【思考】
基本:俺。
1:俺は殺し合いを止めなければならない
2:俺は他の参加者を救わなければならない
3:俺は今後のことについて、落ち着いて考えるためにも、風呂に入らなければならない
【備考】
※正確な参戦時期は、後続の書き手さんにお任せします
【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュ】
【状態】健康
【装備】全裸(頭部にタオルを巻いている)
【道具】なし
【思考】
基本:どうすべきか考え中
1:これからどうすべきかを、風呂にでも入って考える
【備考】
※正確な参戦時期は、後続の書き手さんにお任せします
※自分の関係者が参戦していることに気付いていないようです
※持っているタオルは、銭湯備え付けのタオルです
※D-7目黒区・銭湯の女湯脱衣所に、支給品一式(C.C.)、C.C.の服、ランダム支給品1~3(C.C.)が置かれています
000:プロローグ | 投下順 | 002 :夜食の時間 |
000:プロローグ | 時系列順 | |
START | 東風谷早苗 | |
START | ビート・J・スタッグ | |
START | C.C. |