FEARLESS HERO
両国国技館の舞台に一人の少年がいた。顔にまだあどけなさを残すその少年の名を枢木スザクという。スザクは先ほどの光景を思い出していた。ミストと呼ばれた青年がやらない夫に食ってかかりあっさりと殺されてしまった。「どうして僕はあの時動けなかったんだ。動けていたら彼を助けられたかもしれないのに」スザクは悔いていた。あの場で真っ先にやらない夫に間違っていると指摘した彼を救えなかったことを。「彼が生きていたなら、今もきっとこの殺し合いを打ち破る方法を模索していたに違いない。そしてそれは皆の希望になったはずだ」どんなに強大な力を前にしても、希望さえあれば人間は諦めてしまうことなんてない。そんな力に対する希望になれるはずだった青年はあまりにも無慈悲で尊厳のない死を与えられた。あの光景を忘れることは一生ないだろう。「あんなことをもう許しはしない!」無惨な光景を見たからだけではなく、生来の気質からスザクは既に自分のやるべきことを決めていた。同志を集める。民間人がいる場合は保護。そして殺し合いの打破及びやらない夫の逮捕である。スザクは正義感の強い少年だ。間違った方法で何かを得たり正したりするのを良しとしない。この異常な状況においてもそれは変わらない。それが『今のスザク』の正しい姿なのだから。そんな理想を追うスザクだが決して馬鹿ではない。極端な理想論者なら、ここにいる全員が協力できるなどと考えてもおかしくないのだ。例えそれが最初だけですぐに折れてしまうことだとしても。しかし青年が死んだことを考えれば、この殺し合いに乗ってしまう人間がいてもおかしくないことを理解している。全ての人間が強いわけではないのだ。「あれを見てしまえば従ってしまう人もいるのかもしれない」圧倒的な力を見せることは、自分に逆らう気力を失わせるだけが目的ではなかったのだ。あの男は多くを語りはしなかった。だからこそ勝手に想像が膨らんでしまうのだ。「乗らなければ、乗る姿勢を見せなければ次の瞬間自分が殺されてしまうかも」と。それこそが罠とは気づかずに。一瞬寒気を感じた。力はもちろん、どこまで見越しているかわからないやらない夫の頭脳に。だがそこまで考えた時スザクの緊張がふっと解けた。とある人物が頭に浮かんだのだ。「頭がいいかぁ。ルルーシュを思い出すな。あんな男と一緒にされたら怒りそうだけど……そういえばルルーシュは無事かな。無事だといいけど」頭の良さから連想したのはルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだった。ブリタニアという国から日本に人質として送られてきた少年。最初は仲が悪かった。嫌っている国の人間だから当然だ。だが妹のナナリーを守る姿、自分の力で生きようとする姿を見て、ルルーシュに対する感情は変わっていった。そしてナナリーが消えてしまった件をきっかけに仲良くなったのだ。スザクはもう何年もルルーシュに会えていなかったが、ここに連れて来られる直前に再会を果たしていた。それは心温まるような穏やかな再会ではなかった。任務の最中であり、偶然その場に居合わせたルルーシュがテロリストの一味と判断されてしまった。上官にルルーシュを殺せと命令された。一兵士であり、名誉ブリタニア人であるスザクに逆らう権利などない。しかし上官の命令とはいえ民間人を、友達を撃つことはできなかった。拒否した直後「では、死ね」と上官に撃たれはずだった。死んだと思った。でも気づいた時にはあの場にいた。怪我もない。「僕は撃たれなかったのか?……いや、考えても仕方ない。今自由に動けることが重要だ」そう言ってルルーシュに思考を戻す。「あの頃のまま成長していたならきっと頭がいいはずだ。ルルーシュがもしこんなことに巻き込まれていたらどう行動したのかな」ルルーシュならどうするかを考えてみる。ここでは身体能力だけでなく、知略も必要なのだ。おそらく様々なケースで考察を進め、スザクには思いつきもしないような答えを導き出すだろう。だがスザクはルルーシュ本人ではない。何か思いつくだろうと想像はできても、何を思いつくかまではわからなかった。しかし頭のいいルルーシュだからこそ、敵意を持っていない人間でも必要がなければ切り捨てることもあるかもしれないと思い至った。例えそれがないとしても、ルルーシュなら殺し合いに乗った人間の排除は厭わないのではないだろうかと。普通に考えればそれが合理的だ。それはスザクにもわかっている。「でも僕はそんな人がいても殺したくない」スザクは殺し合いに乗る気もなければ乗った人間を殺す気もない。仮にこれが戦争であるならば、人を殺すことを覚悟したのかもしれない。「これは戦争じゃない。戦争でもなんでもないこの場所でそんなことをしてはいけないんだ。間違った方法を選んではいけない」襲ってくるのなら相手をせざるを得ないが、行動不能にするだけのつもりでいる。幸か不幸かスザクの支給品の一つはスタンガンであった。それなりの威力だが人を殺すことなどできないものであり、スザクの進む道には必要なものと言えた。しかしスザクの選ぶ道は、この場において最も困難且つ間違った道なのかもしれない。自分がいようがスタンガンがあろうが、ずっと監視をすることもずっと行動不能にすることも不可能である。そして殺し合いに乗った人物を生かしたままにすることで、下手をしたら他の人間に被害が出るかもしれないのだ。だが本人はこれを曲げるつもりはない。「僕のような考えの人はきっと大勢いる。そんな人たちと力を合わせればきっとなんとかなるんだ!なんとかするんだ!」誰もいない客席に向かってスザクは誓った。スザクは曲げない。このありえない場所でも法に背く間違った行いをしてはいけないのだ。スザクは気づかない。このありえない場所に法というものがないことに。もしかしたら、スザクの心に秘めた願望が気づかせないのかもしれない。その願望がスザクを困難な道に進ませているのかもしれない。スザクはこの狂った場所で自らの思う正義を貫く。まるで恐れを知らぬ英雄のように……【1日目・深夜/H-5墨田区・両国国技館】【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】【状態】健康【装備】スタンガン@現実【道具】支給品一式、ランダム支給品1~2【思考】基本:殺し合いの打破1:誰も殺さない2:仲間を集める3:民間人がいるなら保護する【備考】※本編1話のルルーシュと再会した直後から参戦
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